性犯罪者にGPS装着を義務化する政策と再犯データ

このエントリーまとめ

このエントリーでは、

  • 性犯罪者にGPSを装着する政策は検討されていること。
  • データで見たところ性犯罪者の再犯率は高くなく、他の犯罪と同程度あること
  • 政策に対して証拠をベースに考えるEBPMの紹介

を行う。

性犯罪 仮釈放中のGPS機器装着を義務化を検討。

www.nhk.or.jp

報道によると、政府は性犯罪者の仮釈放中のGPS危機装着義務化を検討している。

こちらのブックマークを見ても、性犯罪者は再犯率が高いので仕方ないという論調が目につく。

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www3.nhk.or.jp/news/html/20200611/k10012467301000.html

確かに、他の犯罪に比べて再犯する割合が高いのであれば、GPSの装着義務も仕方がないのかもしれない。しかし、下に述べるように性犯罪者の再犯率は他の犯罪と比較して特段高いとも言えないようだ。

データでみる性犯罪者の再犯率

再犯で話がややこしいのは、前科で窃盗などで捕まっても、その次に強姦で捕まれば強姦の再犯だ。つまり私達が通常考える再犯は、複数回同じ罪で捕まったものをイメージするが、実際は異なる。同じ罪で捕まった場合は、同一罪種前有科者という。

平成27年犯罪白書によると、前科が強姦で再度強姦で捕まったものは、6.8%(6.3%+0.5%)だ。

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https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www3.nhk.or.jp/news/html/20200611/k10012467301000.html

また、同じく平成27年犯罪白書によると、

http://www.moj.go.jp/content/001162857.pdf

p31

再犯・再非行ア 再入の受刑者(ア)人員強姦,強制わいせつの入所受刑者人員のうち,初入者及び再入者の人員並びに再入者率(入所受刑者人員に占める再入者の人員の比率をいう。)の推移(最近20年間)を見ると,次のとおりである。強姦の再入者人員は,平成19年以降減少傾向にあり,26年の再入者率は14.9%(前年比4.8pt低下)であった。強制わいせつの再入者人員は,18年以降,100人を超えて,おおむね横ばいで推移しており,26年の再入者率は29.8%(前年比1.4pt低下)であった。強姦,強制わいせつ共に,入所受刑者総数の再入者率(59.3%)と比べると顕著に低い。(強調部著者)

と書いてあり、再入所(つまり再犯者)は顕著に低い。図にあるように、窃盗や覚せい剤は、前回窃盗や覚せい剤で捕まり、再度同一罪状で捕まる、再犯率が70%を超えている。

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保釈中の性犯罪者にGPSを付けるが、再犯する可能性が高いのは窃盗や覚醒剤犯罪であるにも関わらず、保釈中の窃盗犯や覚醒剤で捕まった人に GPSを付けなくて良いというのならばそれはどのような理屈からだろうか?

エビデンスベースの政策を

上に紹介したニュース記事に書いている。プライバシー権などとの関係で課題を指摘する声もある しかし、本当に問わなければならないのは、その政策は本当に効果があるのか?やった気になって満足する類の政策ではないのか? という点は抜け落ちている。上に見たように、性犯罪の再犯は他の犯罪と比較して高いとは言えない。もし、GPSの装着義務化が、再犯防止に効果があるとしても、そもそも数が少ないので効果が限定的な割に、人権侵害などの副作用が大きい

EBPMという政策用語がある。日本語に直すと、「証拠に基づく政策立案」というものになる。日本では(とかく犯罪では)、その政策は本当に効果があったと、客観的な数値で検証できるか?という政策評価は今までなされてこなかった。EBPMではその数値目標や政策の背後にあるロジックの検証を重視する。

RIETIのサイトでは次のように紹介されている。

RIETI - EBPMとは何か?

EBPM(Evidence Based Policy Making)は、「証拠に基づく政策立案」と日本政府の文書では翻訳され、政府全体で推進されている。EBPMとは何かについては、平成30年度内閣府取組方針では「政策の企画立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること」とされている。

今までの多くの政策は、そのような数値の検証がとても弱かった。例えば白書を出すにしてもどのような要素でその政策が効果があったと言えるかとても曖昧だった。 一方で、EBPMは政策による数値検証を重視する立場だ。

例えば内閣府のEBPMの資料では、政策の比較方法としてランダム化比較実験を上げている。マーケターなどではA/Bテストなどのほうが通りが良いである。それが難しい場合でも、差の差比較などでトレンドと政策効果を分離して比較する手法などを勧めている。

https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2019/pdf/mhir18_ebpm.pdf の3ページめ。

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犯罪政策(特に性犯罪政策は)犯罪者を悪魔化しがちで政策の効果を論じる前にとにかく懲らしめてしまえという声が大きくなる。しかし、データに基づかない政策で日本は色々な失敗をしてきた。

私達がやらなければならないのは、なんとなく効きそうだ ではなく、効果的な方法は何であるのか常に問い続け、PDCAサイクルを回すことである。

まとめ

このエントリーでは次のことを論じた。

  • 性犯罪者にGPSを装着する政策は検討されていること。
  • データで見たところ性犯罪者の再犯率は高くなく、他の犯罪と同程度あること
  • その政策に効果があるのか曖昧な割に、人権侵害の副作用があること。
  • 政策に対して証拠をベースに考えるEBPMの紹介

を行った。

感覚ではなく、データに基づいて効果的な政策はなにかPDCAを回しながら考える習慣が、日本の政府にも身につくと良いなと思う。データに基づく意思決定は、意外とwebサービス企業などの方が実施できている。

追加資料

再犯にも、再犯率再犯者率があるそうでそれがしばしば混同されるようです(私も理解があやふやでした)

ameblo.jp

このブログ中でも

実は、強姦に加えて、強制わいせつ及び強盗強姦まで罪種を拡大した場合で、性犯罪の同種再犯危険性は5.1%となっています。<2-4-1-1図参照>(pdf内のp.22) 世間のイメージと異なり、少ないですね。

とのこと。

また、法務省の資料

第2編犯歴・統計から見た再犯者の実態と対策

でも、

「性犯罪は(著者補足)」他の罪名と比べて,「同一罪名再犯危険性」及び「同種再犯危険性」は低い水準にある。これは,世間一般では,性犯罪者は性犯罪を反復する危険性が高いと考えられていることが,事実に即していないことを示している。ちなみに,この点に関しては,米国,カナダ,英国等諸外国における調査においても同様の結果が得られており,日本だけに特別の状況が見られるわけではない。 p22

とあり。性犯罪が再犯が高いという世間のイメージが事実に即していない としている。

データをみて政策を決めることが大事だが、性犯罪は特に加害者を悪魔化しやすく、データではなくイメージで判断を下しがちなので注意が必要だ。