初期HPVワクチン報道で、マスコミの主張はバラバラだったのか?

HPVウイルスの副作用に対する報道姿勢に疑問を持った

HPVワクチンとは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウィルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチンのことだ。 下記のブログによると、子宮頸がんの主な原因は、HPVへの感染であり、その予防方法として、HPVワクチンを摂取する。 しかし、2013年に大規模な接種を進めたところ、副作用が報告されるようになる。ワクチン接種を主導する厚生労働省は積極的推奨をやめる。

詳しい経緯は以下の山口氏のブログにまとまっている。

新聞はHPVワクチンをどう報じたか: H-Yamaguchi.net

私も山口氏と同様に、マスコミ各社の過去の論調を調査しようと思った。新聞記事検索は、有料で高額だったため(朝日新聞の聞蔵は1アカウント月28000円、個人向けの朝日新聞selectでも月3000円+1記事88円だ)、メディア各社のツイートから過去の論調はどうだったかを調査しようと考えた。

調査をして気づいたが、マスコミが、過去何についてどのような論調だったかは、簡単に知ることはできない。そのため、過去の報道と違うことを言っていても気づかない。

2013-2014年のHPVワクチン報道はどのようなキーワードが使われたか?

例えば、毎日新聞、医療プレミア HPVワクチン不信が生じた過程 | 実践!感染症講義 -命を救う5分の知識- | 谷口恭 | 毎日新聞「医療プレミア」 で次のような記事がある(執筆者は医師で、記者ではないようだ)。

この記事は、HPVワクチンの不信が生まれた経緯について書いているが、記事中次のような記述がある。

 厚労省の言っていることは意味不明で、マスコミの主張もバラバラで、おまけに頼りになるはずの医師たちさえ意見が統一されていないこの現実。(強調は著者)

とマスコミの主張がバラバラであると書いている。しかし、その時期のマスコミ各社のツイートのワードクラウドを作ると次のようになる。

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リンクはこちら

副作用、中止、痛み等、ネガティブなワードが並ぶ。一方、ワクチンを推奨するワード、効果という言葉はなく、本来の目的の予防という言葉がかろうじて見つかる。バラバラという言葉から受ける印象(賛否両論)という雰囲気は感じられない。

2013年-2014年にマスコミ各社の子宮頸がん、HPVワクチンに関するツイート(125ツイート)に含まれるキーワード件数

ワード 件数
副作用 21
中止 14
痛み 11
予防 5
改善 1
効果 0

多くのワードが、ネガティブな印象を与えるものになっている。上記記事で、マスコミの主張もバラバラ と書いているが、ネガティブな方向の報道が、相当多かったのではないか?

ネガティブポジテイブを関係なく全ての頻出数はこちらになる。 リンクはこちら

ワード 回数
接種 29
副作用 21
中止 14
11
痛み 11
厚労省 11
ワクチン 10
勧奨 10
7
重い 6
6
報告 6
推奨 6

2013-2016年のHPVワクチン報道はどう変化したか?

また、毎日新聞は次のような記事を書いている。 子宮頸がん HPVワクチン 放置はもうゆるされない 厚労省は逃げるな | | 三原じゅん子 | 毎日新聞「政治プレミア」

その中で次のような指摘をする。

厚労省の罪は重い 「積極的勧奨」が控えられたことで接種率は急減した。きちんと説明してこなかった厚労省の責任は大きい。思春期の女子に筋肉注射を3回もするのだから、不安に思うのは当然だ。さらにその後の厚労省の対応については本当に罪が重いとはっきり申し上げたい。

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しかし、厚労省の姿勢を問題にするなら、同様にマスコミ各社の報道姿勢も問題ではなかろうか?先程の例は、2013-2014年の、125ツイートであったが、少し期間を広げて2013-2016年の、297ツイートを調査する。マスコミは、HPVワクチンの効果について報じたのだろうか?

毎日の記事は、厚生省の姿勢を批判するが、世論に影響を与えたマスコミ各社には、責任は無いのだろうか? 2013-2016年のマスコミ各社のツイートを見ても、副作用、健康被害、中止、痛みといったネガティブなワードが多い。 バスフィードによる厚生労働省のHPVワクチン担当官へのインタビューでもマスコミによる影響があったことを認めている。

HPVワクチン 厚労省はいつ積極的勧奨を再開するのですか?

ーーそれはマスコミがHPVワクチンは危険だという印象をミスリードしてきたという意味ですか?

積極的勧奨を差し控えた当時の世論には、マスコミの影響が少なからずありました。

実際マスコミの論調はどうだったのか、当時のツイートのワードクラウドを作ってみよう

検索ワード:子宮頸がん 子宮頸癌 HPV HPV 件数: 297 テーブル種別:日本 期間:2013年から2016年まで

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ワード 件数
副作用 38
提訴 21
痛み 18
中止 17
予防 8
健康被害 7
改善 1
効果 0

ネガティブポジテイブを関係なく全ての頻出数はこちらになる。 リンクはこちら

頻出ワード 回数
接種 66
副作用 38
ワクチン 31
27
- 24
研究 22
厚労省 22
提訴 21
調査 19
18
痛み 18
中止 17
女性 15
ニュース 13
13

2013年-2016年でも、ネガティブな情報が多い。 ワクチンの効果というキーワードが出てくるのは、2018年以降だ。

tweet link tweet日時 メディ tweet内容
tweet 2018-01-18 時事通信 予防効果とリスク、情報提供=子宮頸がんワクチン−「理解し判断を」・厚労省
tweet 2018-01-18 NHK 子宮頸がんワクチン 防ぐ効果もまれに呼吸困難 厚労省
tweet 2018-03-31 毎日 HPVワクチン:勧奨中断5年 安全性巡る議論続く 子宮頸がん予防効果示す結果次々
tweet 2018-05-15 共同通信 子宮頸がんワクチンに効果 - 若い女性の病変リスク減

マスコミは自らの報道姿勢を振り返ったか

それでは、マスコミは、自らの報道姿勢を振り返ったのだろうか?前掲のブログで山口氏はこう、指摘する

またその後さまざまな検証などによって、ワクチンのメリットがリスクを上回ることが改めて示されるようになった後、各紙の論調は変わっていくが、それ以前の記事に対する検証やふりかえりなどはみられない。こうした一連の流れを「反ワクチンキャンペーン」とまで呼ぶのはやや乱暴かとは思うが、記事数などからみても、子宮頸がん予防のためのワクチン啓発の姿勢は充分とはとてもいえない。

私が探した限りでも、マスコミ報道について言及したツイートは、ハフポストの次のツイートだけのようだ。

「日本はワクチンへの警戒が根強く、普及に遅れか」ブルームバーグが伝える

HPVワクチン接種をめぐる副反応の問題がマスコミに大きく取り上げられたことなどが、ワクチンに対する不安感を根付かせた要因になったと報じている。

https://twitter.com/HuffPostJapan/status/1341680152414220288/

まとめ

先の山口氏が書くように、HPVワクチンに対して、マスコミ各社がその記事に対して熱心に振り返ったとは言いづらい。そしてそれが許されてしまうのは、マスコミ各社の過去の記事を市民が容易に参照できないからではなかろうか?

マスコミ各社が情報をオープンにすることを願う。

参考資料

HPVワクチンに関して新聞報道の影響を調べた論文は見つけられなかった。以下の記事があるようだ。

ブログ記事は、上記で紹介した山口氏の以下のブログ

雑誌の影響については、茨木氏の論文がある(影響の調査というよりは、影響を調査するための理論の紹介のようだ)。

以下参考資料追記

このようなブログを見つけました。

朝日新聞がHPVワクチンを否定する論調の発端だとする論文|Nathan(ねーさん)|note

こちら、英文ですが論文があるようです。

Trends of Media Coverage on Human Papillomavirus Vaccination in Japanese Newspapers

https://academic.oup.com/cid/article/63/12/1634/2282815

この調査のために作ったツールの紹介は↓の記事になります。

shioshio3.hatenablog.com